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メスカル製造における近年の変化についての考察とANIMASへの評価
執筆者:小池 正人
スピリッツエバンジェリストの会 代表
メキシコ蒸留酒アジアNo.1コレクター
はじめに
本稿では、ここ10年ほどのメスカル製造に見られる変化について考察します。
伝統的なメスカルはスモーキーな風味が特徴とされることが多いですが、近年の国際的な需要の高まりと共に、その製造方法や風味の多様化が進んでいます。
また、私は日本国内で流通するメスカルはもちろんのこと、未輸入品を含め600種類以上のメスカルを味わってきた経験から、伝統製法にこだわりを持つハンドクラフトのメスカルブランド「ANIMAS」を高く評価しています。
本考察の最後に、その理由についても触れたいと思います。

ここ10年のメスカル製造の変化についての考察
メスカルの伝統的な製法では、アガベの球茎(ピニャ)を地面に掘った穴の中で石焼きにします。
この工程が、メスカル特有のスモーキーな風味を生み出す主要因です。しかし、ここ10年ほどの間にメスカルの国際的な人気が急速に高まり、輸出量が大幅に増加しました。この市場の変化と多様な消費者の嗜好に応えるため、製造方法にもいくつかの変化や多様化が見受けられます。
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1.国際需要の高まりと多様化
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背景と市場の動向
2010年代後半から、特にアメリカやヨーロッパを中心にメスカルの人気が急上昇し、輸出量も顕著な増加を見せました。一方で、新しい市場からは「スモーキーさが全面に出過ぎている。もう少し飲みやすければ」などと意見も聞かれるようになり、生産者は風味の方向性を模索する必要に迫られました。
国際市場への適応
欧米などの新しい市場では前面に出るスモーキーさを控えた、よりスムーズで洗練された味わいのメスカルが求められるようになりました。
新市場向け商品ラインの登場
欧米の消費者の嗜好に合わせ、スモーキーさを抑えた「マイルドで飲みやすい」スタイルのメスカルが登場。カクテルベースとしても使いやすい、クセの少ないメスカルの需要が増加。
マイクロロットや実験的バッチの増加
クラフト志向の強いブランドが、製法を細かく調整した限定生産のメスカルをリリースする事例が増えています。これらは消費者の反応を探るテストマーケティングとしての側面も持ち合わせています。特にロンドンやEC諸国で盛り上がりを感じています。
クラフトマンシップの進化
伝統を尊重しつつも、より洗練された現代的な味わいを追求する生産者が増えています。
彼らは、アガベの栽培から瓶詰めに至るまで、各工程で細やかな調整を行い、独自の風味を創造しようと試みています。カテゴリーの多様化
「メスカル」という大きな枠組みの中で、伝統的なスモーキーなタイプに加え、スモーキーさを抑えたもの、ハーブ、香料を加えたアボカドコンや風味付するディスティラドコン、特定の地域やアガベ品種に特化したものなど、多様なスタイルの製品が登場しています。
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2. スモーキーさを抑える傾向と製造方法の変化
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・一部の生産者は、より幅広い消費者層にアピールするため、スモーキーさを意識的に抑えたメスカルを製造する傾向にあります。これは、伝統的なスモーキーさを前面に出したメスカルとは異なるアプローチです。スモーキーさを抑えるための具体的な方法としては、以下の工夫が挙げられます。
加熱方法の変更・調整
・伝統的な土中での石焼きの際に、薪の種類や燃やし方、ピニャと熱源との距離などを調整することで、燃焼温度や時間をコントロールし、スモーキーさの度合いを調整する試みが見られます。
・一部のテキーラとメスカルの両方を作る蒸留所では、薪を使った直接加熱ではなく、蒸気を利用した加熱方法など、テキーラの製法に近い方法を取り入れる生産者も現れました。これにより、スモーキーな香りは大幅に抑えられ、アガベ本来の風味をより前面に出すことが可能になります。ただし、この製法で作られたものを「メスカル」として認めるか否かについては、伝統を重んじる立場からすれば議論の余地があります。
蒸留方法の工夫
・蒸留器の素材(銅製、ステンレス製など)や形状、蒸留回数(通常2回)も最終的な風味に影響を与えます。スモーキーさを和らげ、よりクリーンな酒質を目指すために、これらの要素を調整する生産者もいます。
多様なアガベ品種の活用
・メスカルに使用できるアガベは数十種類に及び、品種によってもたらされる風味は大きく異なります。
スモーキーさを抑えつつ、アガベ由来のフルーティーさやハーブのような香りを際立たせることで、バランスの取れた味わいを目指す動きも見られます。従来主流であったエスパディン種以外に、トバラ種やパパロテ種など、品種固有のフローラルな香り、柑橘系の香り、ハーブ感を活かし、スモーキーな印象を相対的に和らげる試みがなされています。伝統とのバランス
・一方で、伝統的な製法とそれに由来するスモーキーな風味こそがメスカルのアイデンティティであると考える生産者や愛好家も依然として多く存在します。特にオアハカ地方などでは、昔ながらの手法と力強いスモーキーさが今もなお主流です。したがって、すべてのメスカルがスモーキーさを抑える方向に進んでいるわけではなく、むしろその多様性が拡大していると捉えるのが適切でしょう。
消費者は、自身の好みに合わせて、伝統的でスモーキーなメスカルから、より現代的でクリーンな風味のメスカルまで、幅広い選択肢の中から選べる時代になったと言えます。特に酒販小売に携わる方ならお分かりでしょうが、結果として、「スモーキー派」と「マイルド派」の双方が市場で共存する状況が生まれ始めております。
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3. 総論の取りまとめ
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項目 従来 近年の変化 加熱法 薪と石の地中窯(強いスモーキー) 蒸気加熱や薪調整でスモーキーさを軽減するケースも 蒸留法 銅製器・2回蒸留が主流 ステンレス製器具の使用や、蒸留回数を調整するケースも アガベ品種 主にエスパディン トバラやパパロテなど多様化、品種の特性を活かす傾向 市場対応 地元消費が中心 国際市場を意識し、マイルドな風味への志向も見られる 風味傾向 土、煙、野性味といった個性が強い クリーンでフルーティな表現や、バランスを重視する傾向も増加 全体像としての変化:伝統と革新の調和
メスカルの「ローカルからグローバルへ」の転換
過去10年における最大の変化は、メスカルがメキシコのローカルな伝統酒から、国際的なクラフトスピリッツ市場で注目される存在へと成長したことです。2010年代前半にはまだ「通好み」のスピリッツでしたが、現在では世界各国のバーやカクテルシーン、さらにはミシュランガイドに掲載されるような高級レストランでも提供されるようになりました。この過程で、風味の「標準化」や「国際化」が一定程度求められ、「過度にスモーキーではないメスカル」が新たなトレンドの一つとして浮上しました。
製法の多様化は「分裂」ではなく「進化」
伝統製法への回帰を目指す動きと、現代的な製法への適応が並行して進んでいる点が、近年のメスカル市場の特異な点です。職人的な伝統製法によるメスカルも依然として根強い人気を誇る一方、輸出向け製品やカクテルベースとしては、アガベ本来の香りを重視した軽やかなスタイルも支持を集めています。若手の蒸留家たちが伝統を尊重しつつも革新的な試みに挑戦する動きも活発化しており、伝統の保護と新しい消費者層へのアプローチを両立させるため、技術革新、品種選定、工程の見直しが行われています。これは、グローバル市場でのブランド戦略と、ローカルでの文化継承とのバランスを模索する動きと言えるでしょう。
筆者の結論
メスカルの「進化」とは多様性とアイデンティティの再構築
この10年におけるメスカルの変化は、「多様性の確立とアイデンティティの再定義」と要約できると考えます。筆者は、「スモーキーさの抑制」という傾向は、必ずしも伝統の否定ではなく、むしろメスカルが持つ表現の幅を広げ、多様な消費者の嗜好に応えるための「選択肢の拡張」であると捉えています。
ANIMASへの評価
このようなメスカル市場の変化と進化を踏まえた上で、筆者が特筆したいのが「ANIMAS」というブランドです。
ANIMASは、伝統的な製法にこだわりを持つハンドクラフトの本格メスカルを造り続けており、大量生産を主眼とする工業的なメスカルとは一線を画しています。
その味わいは本格的でありながら、現代の嗜好にも寄り添った、まさにバランスの取れた逸品と言えるでしょう。
前述の考察で触れたような、伝統を尊重しつつも洗練を求める動きや、アガベ本来の風味を活かすアプローチが、ANIMASのメスカルは見事に体現されています。
過度なスモーキーさに頼らず、原料アガベの品質と丁寧な手仕事によって引き出される複雑で豊かな風味が、ANIMASの最大の魅力です。
日本国内で流通しているメスカルはもとより、未輸入品も含めて600種類以上のメスカルをテイスティングしてきた筆者が、自信を持って「ベスト1」として推薦するのが、このANIMASです。
ぜひ一度お試しいただき、その奥深い世界をご堪能ください。
テイスティング・コメント
ANIMAS(アニマス)について業界のアイコンの方々にテイスティングをして頂きました。
皆様は、何度もメキシコ現地のパレンケ(蒸留所)を訪問して、各アガベの個性、製造過程を理解して、味わいの全てを理解されておられる方々です。
フェリー・カデム 様
日本メスカル協会会長
アニマスは捧げる魂の意味ですが、メスカレロのマスターがアガベの女神マヤウェルを召喚するために捧げるものです。
この儀式では、アガベの精霊が神聖なウサギに命を与えその液体の精霊によって私たちは神秘的な世界に入ることができます。良いクラフトメスカルの中一つです。深い味わいを感じながらスムーズでとても良いメスカルです。
TASTING COMMENT
【エスパディン】
甘いハチミツとヘーゼルナッツ、熟したトロピカルフルーツ、ミネラル、土っぽい、スモーキーと青っぽい植物の香りと味わい。
【パパロテ】
シトラスの花とバナナ、マンゴー、パイナップルなどのトロピカルフルーツの香りでフルーティ、草と植物やハーブの香りとミントタッチ、ローストアーモンドと酸味の味わい。
【エスパディン&パパロテ(ブレンド)】
華やかなコリアンダーとバジル、アガベやハチミツのような花の香り、ドライ土の香り、アプリコットの甘さとほのかな酸味の味わい。
【トバラ】
甘くてフルーティ、ハーブの風味があり、後味は強いスモーキー、繊細で柔らかな香りで、味わいはリッチでバランスが取れています。後味は滑らかで長く続きます。
林 生馬 様
日本テキーラ協会会長
日本メスカル協会 顧問
『アニマス』はメスカルの世界では稀有な蒸留所の自前のブランドである。
一般的にはボトラーズ会社が蒸留所に生産を委託している形のメスカルブランドが多いなか、アニマスが生産者自身である点は、高いクオリティが維持できる大きな要因となる。
TASTING COMMENT
【エスパディン】
「エスパディン」は、リコリス香を中心にブーケ、ミネラル、シトラスの香りが美しく、しっかりして甘さの中に仄かな塩味を感じ、フィニッシュはスモーキーさも現れる。
オアハカ州のメスカルの王道を行っており、アニマスの主力商品であろう。
【パパロテ】
「パパロテ」は、クプレアータというゲレロ州に多いレア品種を使用した貴重なメスカルで、スモーキーさの中にフルーツやゴボウの香りが野性的だ。旨味が大変芳醇で、塩味とともに極めて太いボディを作っている。
【エスパディン&パパロテ(ブレンド)】
「アンサンブレ」はクプレアータとエスパディンの両方のアガベを使用した重ね味で、ワインのシャトーのような重層的な香りと味わいを持つ。
【トバラ】
「トバラ」は葉が短めのアガベ・ポタトラムを使用し、子株を作らない品種のため種子から育てる。そのためかこの商品は別の蒸留所に委託している。アロマこそ優しいが、テイストは旨味と塩味を非常に力強く感じさせるスーパーフルボディだ。